2011年10月12日水曜日

3-2 言語の本質Ⅱ・本能、無意識、意識

<言語とはピラミッドのように階層化された条件反射の集合体である>

まず人間の精神構造の基礎を簡単におさらい。
生物としての人間の精神構造は、本能、無意識、意識の三層からなる。

(1)本能=無条件反射の集合体
生命体が生き延びるための情報処理の基底部分が「本能」。
単細胞生物のゾウリ虫から、昆虫、魚、爬虫類に至るまで、脳と神経系には生存に必要な処理プログラムが既にインストール済み。人間の場合、体温は37度前後に保たれ、食べ物は自然に消化され、心拍数は必要に応じて調整され、必要な酸素を身体中に送り届ける。これらは全て本能の営み。
40億年の進化の中、環境の変化と刺激に対して最適な反応を獲得した生物のみが生き残った。その反応は無条件反射として遺伝子に刻み込まれてきた。その無条件反射の集合体が「本能」である。

本能というと下等な感覚・意識のような誤解があるが、それは大きな間違い。免疫系によるウィルス撃退の仕組みなど、むしろ現代科学の粋を集めても、未だに解明されない程の複雑な仕組みなのだ。そして本能は生命活動が続く限り休むことなく働き続けるのだ。

(2)無意識=条件反射の集合体
条件反射といえば「パブロフの犬」の実験で有名。これは、特定の音刺激と食物を同時に与え続けると、音だけで唾液の反応が出るようになる。後天的に刺激⇒反応の自動回路が形成されることを示した有名な実験。日本人なら梅干しを見て唾液が出るのも条件反射である。

梅干しと唾液だけでなく、自動車の運転、楽器の演奏等も、メーター、標識、楽譜など、刺激と運動を繰り返し学習する事で、スムーズに動作が可能になるのも高度な条件反射の一例。

楽器演奏で言えば、最初は
視覚刺激(楽譜)⇒「認識と理解」⇒行動(演奏)
という流れで処理されていたのが、練習を続けるうちに「認識と理解」の処理が無くなって、
視覚刺激(楽譜)⇒行動(演奏)
と自動的な処理回路が形成される。

パブロフは旧ソ連の研究者だったが、それを拡大解釈した戦後のアメリカの行動主義心理学者は、条件反射だけで、人を思い通りに形成できるといった過激な思想も現れた。それは人間の可能性が環境と遺伝のどちらによって決められるかと言う、今に続く論争を巻き起こしている。
しかし、楽器演奏や車の運転のような技能が、条件反射の組み合わせによって出来あがっていることに疑いの余地は無い。

このように、後天的に獲得した学習活動で、自動的に刺激と反応の関係性が確立したものが条件反射。そして無意識はその条件反射の集合体である。

(3)意識=明示的に説明可能な行動の集合体
意識とは何か?これは、現在の脳神経科学の最先端の話題でもあるが、ここでは便宜的に、以下のように定義する。
「自分が何を行っているのか説明できる状態」が意識である。

自分で説明できる代わりに、意識が処理できる情報量は極めて少ない。心理学実験により、無意味な番号や数字列を一時的に記憶できる限界は7単位±2と判っている。普通に音声を聞き取り、書きとれる情報量は5-10バイト/秒程度と言われる。
ちなみに本能が処理する生体情報は数十メガバイト/秒以上と言われる。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、体内神経センサ―等から脳に集められる情報量は膨大なのだ。

ところが意識は無意識レベルの条件反射を一つの基本処理単位として扱い、最終的には巨大な情報処理を遂行する。
また逆に、最初は膨大な情報量の故に手間がかかっていた学習も、正しく継続すれば意識レベルから無意識レベルの条件反射に再編成することができる。

意識的に学習を重ねることで、刺激⇒意識⇒反応という処理フローから最終的には意識をバイパスして、刺激⇒反応の条件反射とするかが語学学習の本質なのである。

この条件反射は、本能を構成する無条件反射と違い、いつでも意識レベルでの操作が可能になる。
オーケストラの指揮者は100人の演奏者がバラバラに聞き別ける事ができる。サッカーの監督は、22人の動きを瞬時に理解する。これらは全て、無意識レベルの条件反射を基本処理単位として意識で理解する事で可能になるのだ。

ちなみに、10歳以下の子供においては、その言語環境に飛び込めば、意識のフィルターを通さずに自然に言語は獲得される。これは人間に「言語を獲得する」本能が最初から準備されている証拠。面白い話題であるが、また別の機会に。

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